君の隣
ノックの音。

 静かにドアが開くと、そこにいたのは看護師ではなく──拓実だった。

「……お昼、抜いてるでしょ」

 手には、理名の好きなチキンサンドと、ほんのり温かいスープ。

理名は驚きつつも、小さく微笑んだ。

「……どうしてわかったの?」

「理名の“疲れてるサイン”は、わかりやすいんだよ。

 眉間と、指先」

ふと見下ろすと、自分の指先が無意識に握りしめられていたことに気づく。

「……ありがとう。

 ほんと、拓実って、なんでそんなに……」

「好きだからだよ」

その言葉は、とても自然だった。

 あまりに自然すぎて、理名は一瞬言葉を失った。

(“副作用”とか“治療”とか、“医療”の言葉じゃ、測れないものがある)

そう思った瞬間、目の奥の重さが少しだけ和らいだ気がした。

 拓実は、湯たんぽを作って理名の足元にそっと入れた。


 「寒気、まだする?」

「ううん、大丈夫。

 でも……ありがとう」

「これからもっといろいろ出てくるかもしれないし。


 だるさとか、気分の波とか……

 そういうの、絶対に我慢しないで言って」

理名は、拓実の胸元に顔を寄せて言った。

「……ありがとう。

 医者のだからこそ、弱音吐けなくて。

拓実の前だと、ちゃんと“わたし”に戻れる」

「じゃあずっと俺の隣にいてよ。

 理名が『離して』って言っても、離す気はないけどね。

 理名が理名でいられる場所、ここにあるから」


 その夜──
薬のせいか、それとも安心したせいか、
理名は、いつもより深く、ゆっくりと眠りに落ちた。

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