君の隣

副作用

雨が降り出したのは、昼前だった。

 理名の体の重さは、天気のせいではない。

 ホルモン療法が始まって数日──

 副作用は確かに“そこに”あった。

常にまとわりつくような倦怠感。

 ふいにこめかみを強く締めつける頭痛。

 そして──

 些細なことで急に涙が込み上げるような、心の波。

「……はあ……」

 理名は処置室の椅子に腰を下ろし、しばらく天井を見つめた。

 午前の診療は終わったばかりだというのに、すでに目の奥がずんと重い。

(何もかもが、鈍くなっていく感じ……)

医者である自分がこんなにも感情に呑まれていることに、ひどく自己嫌悪した。

 「他の人に比べれば、きっと軽い副作用だ」

 「薬のせいだって、頭ではわかってるのに」

──でも、身体がついてこない。

患者に笑顔を向けること。

 昼食を口にすることも。

 いつもなら、自然に出来ることが、今日の自分には、あまりに難しく思えた。

(……弱い)

心のなかで、誰かの声がする。

『こんなことで音を上げるなんて』
『もっと重い病気の患者さん、たくさんいるのに』

そして、ついに──
理名はその声を止めきれなくなった。

処置室のカーテンの奥、白衣のまま、静かに肩を震わせる。

 自分の手が、自分の頬を拭っていることにも気づかないまま。

 
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