君の隣
「……岩崎先生。

 今日はちょっと顔色悪いわよ?」

電子カルテから目を離さずに告げたのは、朱音だった。

 呼吸器内科のフロアにふらりと現れた彼女。

 手に持ったコーヒーカップをデスクに置き、理名を見つめる。

「隠してるつもり、だったんですけどね」

 理名は苦笑した。

 「ホルモンバランスの変化って、やっぱり顔に出ます?」

「出る出る。

 特に“感情の振れ幅”はね。

 倦怠感もあるでしょ」

「……正直、かなりあります」

朱音は優しい目でうなずきながら、理名に一枚の用紙を手渡した。

 次回のホルモン療法について、薬剤の種類と副作用のリストが並んでいる。

「怖がらせるつもりじゃないけど、知っておいてほしいの。

 これからも、身体も心も波がある。

 でも、岩崎先生はちゃんと向き合ってる。

 焦らなくていいのよ」

理名は深く息を吸い、うなずいた。

 その直後、自然と言葉がこぼれた。

「……“ちゃんと向き合う”って、どういうことなんでしょうね。

 医者としての知識がある分、かえって不安になることも多くて」

朱音はそっと笑う。

「じゃあ今日の外来で、自分の答えを見つけてみて。

 患者さんの言葉に、何かヒントがあるかもしれないから。

 

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