君の隣
「……でもね」

 女性は、静かに語る。

「いま振り返って思うんです。

  “つらかった”って口に出せること自体が、もう回復の証なんだって。

 当時は、泣くのも苦しかった。

 でも、いまは“あれも私の一部だった”って思える。

 先生も、ホルモン治療されています?

 そのときの、私を、そのまま鏡で見てるみたい。

 先生に、こんなこと言うのは、おこがましいかもしれないけどね。

 つらいことも、どうか否定しないで」

理名は、喉の奥がきゅっと詰まるのを感じながら、ゆっくり言った。

「副作用で気持ちが波打つんです。

 そのたびに、“医者なんだから、ちゃんとしなきゃ”って焦っちゃって。

 でも……そうですね。

 つらいって言っても、いいんですね」

女性はうなずき、ふっと柔らかく笑う。

「先生の言葉、伝わってきましたよ。

 あなたのような先生がいてくれるだけで、安心できますから」

理名は深く頭を下げた。

 “患者としての弱さ”を言葉にしたとき、自分の中に少しだけ余白ができた気がした。

自分の迷いや痛みを、恥じなくていい。

 それすらも、誰かに寄り添う力になるのなら──

 

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