君の隣
──外来が終わり、理名は静かな廊下を歩きながら、ポケットの中で拳を握った。

医者である自分と、患者である自分。
その両方を否定しない。

怖い気持ちも、受け止める。

 これが、理名の出した答えだった。
 

外の陽射しは強く、真夏の空はどこまでも青い。

 カーテン越しのリビングは涼やかで、穏やかだった。

コットン素材のワンピースを身にまとう理名。
拓実は彼女の隣に腰を下ろして、静かに肩を預けていた。

「今日、ホルモン値は安定してるって言われた」

 理名が、ぽつりと呟く。

「そっか……よかった」

 拓実の声は、心底安心したようにほどけていた。

「副作用、全部なくなったわけじゃないけどね。

 朝起きて、急に泣きそうになったり、何もしたくなくなったり、するんだ。

 でも、前よりは、波の底が浅くなってきた気がする」

「理名が、そうやって。

 しんどいって言えるようになっただけで、俺は嬉しい。

 前までの理名なら、全部を独りで抱え込んでたでしょ?

 睡眠薬自殺まで、考えるくらいには」

照れくさそうに笑って、拓実は理名の手を握った。

 その掌はあたたかくて、やさしい。

< 126 / 216 >

この作品をシェア

pagetop