君の隣
いつかこの日々が、すべての記憶の中で“始まり”として残るように。

 ふたりは、肩を寄せ合いながら、小さな未来を静かに重ねていった。

 
秋が始まりかけたある午後。

 理名は久しぶりに仕事のない週末を、自宅のダイニングで過ごしていた。

 目の前には、先日朱音先生から手渡された不妊治療に関するパンフレットが並んでいる。

「タイミング法、人工授精……それに、体外受精」

 理名は静かに読み上げながら、眉を寄せた。

子宮筋腫の手術が無事に終わり、ホルモン療法も少しずつ体に馴染んできた。

 だがその先に待っている未来──

妊娠、出産への道のりは、まだ険しい。

「焦らなくていいって、わかってるんだけど……」

 自然とこぼれた呟きに、拓実がそっと隣に座った。

「焦っていいよ。

 焦るって、それだけ“欲しい”って思ってる証拠だろ?」

彼の声は、やさしく、まっすぐだった。

「……実は、話してなかったことがあるんだ」

拓実の口調が変わった。

 理名は、ゆっくりと彼の方を向く。

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