君の隣
「妊娠や不妊治療って、“努力と結果が比例しない”分野なの。
 
どんなに正確に動いても、どれだけ頑張っても、
 “できない理由”がわからないままのこともある」

理名が、ゆっくり目を伏せる。

「でもね──」

 朱音は優しく微笑んだ。

 「“がんばってること”は、ちゃんと“意味”になる。

 それを積み重ねていくあなたを、私は誇りに思うよ。

 医師としても、患者としても」

 

その言葉に、理名の肩から力が抜けた。
涙は出ない。

 頭の中を占めていた感情が、ゆっくりと消えていく気がした。

 

「……ありがとう。

 朱音先生」

「私たちは味方だよ。

 拓実くんも、ね」

 

その日の帰り道。

 理名は駅ビルのデパ地下で拓実の好きなドーナツを買って帰った。

 渡す理由なんていらなかった。

 ただ、顔が見たかった。

──ふたりの足並みは、きっとまた揃えられる。

 今は、それでいいと思えた。

 

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