君の隣
「お風呂、先に入って」
何でもない顔で立ち上がった理名は、キッチンの片付けを始める。
グラスを拭く手が一瞬止まった。
涙が出そうだったわけじゃない。
ただ、“何か”がうまく流れないままだった。
その夜も、ふたりはベッドに並んで眠った。
肩が触れる距離にいても、心はどこか、宙ぶらりんだった。
病院の診察室。
呼び出された名前は「岩崎理名」だったが、扉の向こうにいたのは、よく知る顔だった。
「お疲れさま。
岩崎先生」
朱音の声は、いつものように穏やかで、でもどこか遠慮があった。
理名は静かに席に座る。
拓実もその隣に腰を下ろしたが、言葉はなかった。
朱音はカルテを確認しながら、ほんの一瞬だけ視線を下げた。
医師として──
彼女は一拍置いた。
「……今回の結果、ね」
朱音は、理名の目をまっすぐ見て言った。
「妊娠反応は、出なかった。
──陰性だったよ」
理名の顔色は変わらない。
けれど、拓実の指先がわずかに理名の手を握り込む。
「……わかりました」
理名の声は落ち着いていた。
あくまで医師として。
現実を受け止めようとするその姿勢が、逆に痛々しかった。
何でもない顔で立ち上がった理名は、キッチンの片付けを始める。
グラスを拭く手が一瞬止まった。
涙が出そうだったわけじゃない。
ただ、“何か”がうまく流れないままだった。
その夜も、ふたりはベッドに並んで眠った。
肩が触れる距離にいても、心はどこか、宙ぶらりんだった。
病院の診察室。
呼び出された名前は「岩崎理名」だったが、扉の向こうにいたのは、よく知る顔だった。
「お疲れさま。
岩崎先生」
朱音の声は、いつものように穏やかで、でもどこか遠慮があった。
理名は静かに席に座る。
拓実もその隣に腰を下ろしたが、言葉はなかった。
朱音はカルテを確認しながら、ほんの一瞬だけ視線を下げた。
医師として──
彼女は一拍置いた。
「……今回の結果、ね」
朱音は、理名の目をまっすぐ見て言った。
「妊娠反応は、出なかった。
──陰性だったよ」
理名の顔色は変わらない。
けれど、拓実の指先がわずかに理名の手を握り込む。
「……わかりました」
理名の声は落ち着いていた。
あくまで医師として。
現実を受け止めようとするその姿勢が、逆に痛々しかった。