君の隣
朱音は続ける。

 「ホルモンの値も、子宮内の状態も悪くない。

 だから、医師としては“次に進める”って言える。

 理名ちゃん。

 無理してない?」

その問いに、理名はふと目を逸らした。

 一瞬だけ、視線が拓実に向きかけて──

 でも、そのまま首を横に振る。

「大丈夫。

 思ったより、ちゃんと受け止められてる」

 理名の表情は穏やかで、微笑みにすら見えた。

でも朱音は、同僚としても、先輩としても知っていた。

 この人は、笑顔の仮面をかぶるのがいちばん得意なタイプだと。

「拓実くん」

 朱音は彼の名を呼んだ。

「支える側が“無力感”を感じるときってあるけど……

 あなたの温度は、理名ちゃんにちゃんと伝わってるよ。

 言葉にしなくても」

拓実はわずかにうなずき、理名の手をぎゅっと握った。

< 144 / 216 >

この作品をシェア

pagetop