君の隣
診察室を出るとき、朱音はそっと彼女の背中に手を添えた。

 「理名ちゃん。

 無理しないでね。

 泣きたくなったら、ここで泣いていいから」

理名は答えず、ただ小さくうなずいた。

 その目は、涙では濡れていなかったけれど──

その分だけ、唇を強く噛んでいた。

病院を出たあと、拓実は理名の肩を一度だけ抱いた。

「少しだけ、仕事戻るよ。
 外来があるんだ」


 彼の指先に宿る温度は、優しかった。

 でも──それを真正面から受け止める心の余白が、今の理名にはなかった。

そのまま帰宅する気になれず、理名はふらりと駅前の小さな公園に立ち寄った。

 夏の午後の陽射しが、痛いくらいに突き刺さる。

 ブランコがゆっくり風に揺れて、無人の砂場には誰の足跡もなかった。

ベンチに腰を下ろすと、全身の力が抜けた。

 次の瞬間だった。

 静かに──でも確かに、涙がこぼれた。

「……はあ」

 自分でも気づかぬうちに、息を吐くように泣いていた。

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