君の隣
一度目の人工授精。

 うまくいかない可能性の方が高いことは、理屈ではわかっていた。

 わかっていたはずなのに──

 身体の奥で、どこかが空っぽになる感覚。

「……どうして、こんなに悲しいんだろう」

 涙が落ちるたび、問いが胸に返ってきた。

努力した分、感情はいつも置き去りになる。

 自分が“医師”であることで、無意識に感情を抑え込んでいた。

 泣いているのは、弱いからじゃない。

 大切だから、怖くなる。

 臆病になる。

だけど……それを、誰に伝えればいいのかさえ、わからなかった。

そんなときだった。

 スマートフォンが震えた。

 画面には、「深月」の名。

理名と同じ、成都輪生大学病院の、精神科医。

 娘の深明(みあ)を、育てながら日々の業務をこなす母でもある。

 そして何より、理名の高校の同級生だ。

 「……理名?

 今、声出せる環境かしら」

電話の向こうの深月は、高校の頃と変わらず、落ち着いた声だった。

 どこか、母性すら帯びた温度のある声。

 その声は、優しくて、理名の涙腺を刺激した。

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