君の隣
深月の声が、少しだけ低くなった。

「感情は、理屈よりも速くて、正直なもの。

 とくに“悲しみ”ってね、いつも脳より先に、心を濡らしにくるのよ」

理名はその言葉に、ふっと口元をゆるめた。

 さすがは、精神科医らしい言葉だった。

「……泣いても、いいのかな」

「当たり前じゃない。

 医者だって、妊活中の女性だって、“ひとりの人間”なんだから」

そう言って、深月は最後に、こんなふうに続けた。

 「いまは、無理に強くならなくていい。

 理名がまた笑えるようになるまで、周りが支える番なんだから」

静かに頷きながら、理名はそっとスマホを胸に抱きしめた。

声だけでも──あたたかさって、こんなにも沁みるんだ。

 そんなことを、改めて思った。

夜、理名が帰宅したとき、部屋はもう静まり返っていた。

 玄関の灯りとリビングの間接照明だけが、彼女を迎える。

 台所には、とっくに冷たくなった味噌汁と、湯気の消えたごはん。

 それだけで、彼が帰宅を待っていたことが、伝わってきた。

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