君の隣
「……ただいま」

 声に出してみても、返事はない。

脱いだ靴の向こう、寝室の扉が少しだけ開いていた。

 理名はゆっくりとドアを引き、そっと中を覗く。

 ──そこに、拓実の寝顔があった。

横になったまま、腕枕のように何かを抱えて眠っている。

 理名が静かに近づくと、それが小さなジュエリーボックスだとわかった。

あの、プロポーズの夜に渡された──銀の指輪。

「……拓実……?」

呼びかけると、拓実はゆっくりと目を開けた。

 そして彼は、何も言わずに理名の手を取った。

「ごめん。

起こしちゃった……」

「いいよ。

 ……帰ってきてくれて、嬉しい」

 拓実の声は、静かで、でもどこか張り詰めていた。

理名が視線を落とすと、指輪を包む拓実の指先が、かすかに震えていた。

 彼の唇が動く。

「……祈ってたんだ、この指輪に」

 「……」

「意味があるって思いたかった。

 俺が、理名に贈ったこと。

 この先、何があってもふたりで歩いていくための“約束”だったから──

 たとえ今日、結果が出なくても……

 祈ってた。

 理名の心が、壊れないでって」

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