君の隣
理名の胸に、何かが優しく落ちた。

 強くて、まっすぐな彼の想い。

 それを、自分だけが見えなくなっていた。

そっと彼の手に、自分の手を重ねる。

「……私、また泣いちゃうじゃんよ」

 「いいよ。

 泣いても、強がっても。
俺が全部受け止めるから」

拓実がそう言って、理名を腕の中に引き寄せた。

 指輪の箱は、彼の胸元で温もりを帯びていた。

この夜、ふたりは──ただ、黙って寄り添った。

 眠れないままの時間を、確かめるように。

 失敗の痛みも、次への希望も、ゆっくりとひとつに溶けていくように。


翌朝、カーテン越しの光に包まれて、理名は目を開けた。

「……おはよう」

ベッドの横には、起きたばかりの拓実がコーヒーを淹れていた。

 湯気がやさしく昇る香りに、理名は胸を撫で下ろした。

「ねえ、拓実」

「ん?」

「また、挑戦してみてもいいかな」

 そう言った理名の瞳には、迷いがなかった。

拓実は、静かに笑って首を縦に振る。

「うん。
 ……一緒に、頑張ろう」

今回はうまくいかなかった。

 でも、それだけじゃない。

 “心が整った”という感覚が、確かにあった。

焦らなくていい。
泣いてもいい。

 夫婦で、ちゃんと“立ち止まる力”を知ったから──

 次は、前よりもずっとあたたかく向き合える気がしていた。

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