君の隣
午後の柔らかな日差しが、病院の休憩室の窓から静かに差し込む。

 理名は椅子に座り、目を閉じていた。

 呼吸は浅く、胸の奥にぽっかりと大きな穴が空いたようだった。

これまで積み重ねてきた希望や祈りが、一度に崩れ去った喪失感。

 その感情に押しつぶされそうになりながらも、どこかで自分を責めてしまう。

「なんで私だけ……」

 声に出さず、震える唇が言葉を呑み込む。

扉の開く音に気づき、理名はゆっくりと目を開けた。

 そこには、穏やかな笑顔の(りん)先生が静かに座っていた。

 亡くなった理名の母の同期の看護師だ。

「凛先生!?
 どうして?」

「この間。
 学会で顔を見て以来ね。
 
登壇してたの、見てたわよ。

私、せっかく実習でお世話になったこの病院で非常勤の看護師をして、来年でキャリアを終えるの。

 それを、あなたにも伝えたくてね。

 理名ちゃん。

 ……ひとりで抱えすぎてない?」

 凛先生の声は優しいが、確かな強さを帯びていた。

理名は視線を伏せたまま、答えられなかった。

 胸の中で渦巻く、たくさんの感情。

 それらをどう言葉にしたら良いだろう。


 それが分からなくて、ただ押し黙った。

 
< 156 / 216 >

この作品をシェア

pagetop