君の隣
凛先生は少しだけ間を置き、静かに語り始める。

「あなたのお母さん、鞠子(まりこ)はね……

 私の同期で、親友だったわ。

 彼女はどんなに辛くても、決して折れなかった。

 不妊治療の長い道のりを、涙を堪えながらも必死に歩んだ。

 そして、あなたに会えたときの喜びは、言葉にできないほど大きかった。


 彼女、いつも言ってたの。

 “もし子どもを授かれたら、女の子がいいな。

 手が小さくて、パパに似た一重の子”って。

 ……あなたみたいな子よ」

理名の胸の奥が、きゅうっと締めつけられる。

「……母が、不妊治療をしていたって。

 いま、初めて知りました」

「そう。

 なかなか言えなかったのよ。

 彼女、自分のことより、いつも患者さんのことを優先してたから。

 本当に、貴女にそっくりよ。

 もう、言われすぎて、耳にタコだろうけど、ね」

 そして凛先生は、まっすぐ理名を見る。

「だからね。

 あなたが、いま苦しんでいること……鞠子は誰よりわかってると思う。

 だけどきっと──“頑張りすぎないでね”って、言うわね。
 あの子らしく」

「……」

理名の目に、涙が浮かぶ。

「あなたが前を向くことを、誰より願ってる。

 ……自分の気持ちは、素直に吐き出していいの。

 受け止めてくれる人が、側にいるなら、尚更よ」

その言葉に、理名は深く、深くうなずいた。

 温かくて、静かな涙が、とめどなく頬をつたった。

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