君の隣
「理名ちゃん。
 今回も、陰性でした」

朱音先生の声が遠くに感じられた。

 頭ではわかっていたはずだった。

 確率の話も、準備も。

それでも、期待をゼロにはできなかった。

心のどこかで、願ってしまっていた。

──次はきっと、と。

「……ありがとうございました」

それだけを告げて、理名は診察室を出た。

 何も言わずに立ち上がった拓実が、彼女の背をそっと追う。


その晩、ふたりは言葉を交わさずに帰宅した。

キッチンに並んだカップ。

 脱ぎっぱなしの白衣。

 冷めていくスープ。

拓実がハーブティーを淹れて、差し出した──

理名は、それを手に取ることさえ、できなかった。

「……理名」

呼びかけに、彼女は首を振る。

「……今は、やめて」

 「話さなくていい。

 ただ……」

拓実が何か言おうとした瞬間、理名の声が鋭く空気を裂いた。

「“ただ”なんて、ないから!」

 その言葉は、叫びに近かった。

 
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