君の隣
院内のロビーに、桃色の造花が飾られ始めたころ。

 理名は、電子カルテの前で目を細める。

「……呼吸が浅い。

 SpO₂が落ちる前に、酸素入れたほうがいいですね」

冷静に指示を出している。

 体のどこかでは“別のスケジュール”の進行も意識していた。

午前の外来が終わると、昼食もそこそこに婦人科へ移動。

 不妊治療の経過確認と、ホルモン注射のための通院が、ほぼ日課となっていた。

待合でスマホを確認すると──

『【挙式当日の導線確認について/プランナーより】』
『【席順確定のお知らせ】』

また通知が3件。

 理名は、額に手を当てて小さくため息をつく。

「……春って、なんでこう、色々重なるんだろうね」

その夜。

 帰宅した拓実も、シャワーを浴びながら小さく唸った。

「外来と病棟、ダブルで回すの、地味にきついな……」

髪を乾かすタオル越しに、理名が笑う。

「そのうえ結婚式準備も、だもんね。

 今の私たち、超過密スケジュール夫婦」

「なかなか他にいないと思う。

 式までに、何人診察するんだろうな」

「それでも、どちらかが手を抜いたら成り立たないね。
 ……ありがと、拓実」

「俺もだよ、理名。

 こんなに一緒に頑張れてるの、誇りに思う」

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