君の隣
夜。

 ふたりはコートを羽織って、かつて並んで歩いた病院裏の桜並木へ。

まだ五分咲きだったが、街灯に照らされた花は幻想的だった。

 春風に揺れるたび、昔の気持ちをそっと呼び起こした。

「ねぇ……理名。

 ……今、どんな気持ち?」

 「……幸せだよ。

 すごく、すごく」

ふたりきりの静けさのなか、拓実が理名の手を引いた。

 頬にかかる髪をそっと払って、真正面から見つめる。

「……何度誓っても足りないくらい、理名を愛してる」

その言葉のあとの口づけは、
もう何度も重ねてきたはずなのに──

不思議と、初めてのように震えた。


 バスルームの蒸気がまだ肌に残る理名の背中に、拓実がそっと腕をまわす。

「……今日の理名、何だか桜みたいだ」

首筋に落ちた囁きに、理名は思わず肩をすくめる。

 ボディークリームを今の時期限定の桜のものにしたからだ、というのは秘密にしておく。

 濡れた髪から滴る雫が、ローブの襟元を濡らした。

「……咲きかけ?
 それとも、満開?」

「どれも全部だよ。

 咲く前の緊張も、ひらく瞬間も、余韻も……
 全部愛おしい」

低く甘やかに囁く声。

 次の瞬間、うなじに触れた唇がじわりと熱を伝えてくる。

 そのまま、腕の力で抱き上げられ──理名は息を呑んだ。

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