君の隣
やがて、理名の名前が呼ばれた。

 声に導かれるように、診察室へと歩を進める。

 椅子に座った理名に、朱音がそっと微笑んだ。

  「……理名ちゃん。

 検査薬、陽性だった。

 妊娠の可能性が高いわ」

 理名の目が見開かれる。

 言葉にならない思いが、胸の奥で静かに膨らんでいく。

 朱音先生はそっと理名の肩に手を添え、優しく微笑んだ。

「本当に、おめでとう、理名ちゃん」

 理名は小さく頷いた。

 その瞳には、涙が静かに光っていた。

 ふと、理名の脳裏に浮かんだのは── 旅館の夜。

 掛け布団の上で、拓実と静かに重ねた体温。

 あの夜のぬくもりと、通院を重ねた日々。

 どちらが命の始まりだったのかは、もう分からない。

 でも、確かに言える。

 この春、ふたりの想いが重なって──

理名の身体は、新しい命を迎え入れていた。
 

妊娠検査薬が陽性となってから、5日が経った。

 お互い、夜勤や当直で、日々が慌ただしく過ぎていった。

 
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