君の隣
やがて部屋の電話が鳴り、女将さんのやわらかな声で、朝食の用意ができたことを告げられる。

「……旅館の朝ごはんって、なんか特別だよね」

「朝からごちそうって、贅沢だよな。

 ……今日はゆっくり食べよう。

誰にも急かされない朝だし」

ふたりで浴衣を整えて、食事処へ向かう。

窓辺の席に案内された。

 白い湯気の立つお味噌汁、ふっくら炊き立ての白米、焼き魚。

 小鉢の数々。

ひとつひとつに手間がかけられていて、それがふたりの心にも沁みていく。

「……ちゃんと食べるって、当たり前のことなんだけど……あったかいね」

「麻未と一緒に食べるから、余計に美味しいんだよ」

慎也のその言葉に、麻未は思わず箸を止めて顔を赤らめる。

ふたりの湯呑から立ちのぼる湯気が、まるで未来への予兆のように揺れていた。

「……ねえ、慎也」

「うん?」

「未来もこんなふうに、目覚めて、朝ごはん食べて、笑って……

そんな日々を積み重ねたいな」

「積み重ねよう。

何年も、何十年も」

「そのうち、3人になるかな?」

「……昨日の夜で、少し近づけたかもな。
 その未来に」

その言葉に、麻未は再び、照れたように笑った──

 ふたりの朝は、静かに始まっていった。

 
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