君の隣
それから数日後──

 外来の予約を終えた麻未は、昼休みの時間を使って朱音の診察室を訪れた。

それは、初めて心拍が確認できる日だった。

 白衣のまま、胸の奥だけがそわそわとざわついている。

「岡崎先生、いらっしゃい」

 朱音が穏やかに笑う。

 まるで、その声色だけで包まれるようだった。

超音波検査が始まる。

 冷たいジェル。

 モニターに浮かび上がる、まだ豆粒のような小さな命。

「……見える?」

朱音の指が示す場所に、点のような光が明滅していた。

「これが、心拍。

 ……赤ちゃんの心臓の動きよ」

 やさしい声が、麻未の鼓膜に届いた瞬間──

「……っ」

 涙が、止まらなかった。

どくん、どくん、と規則的に点滅するリズム。

 小さな命が、たしかにそこにいる。

 生きている。

「わたし……本当に、母になるんだ……」

呟いた麻未の目元に、朱音がそっとティッシュを差し出す。

 彼女の手もまた、どこか懐かしい温もりがあった。

「不安になったら、いつでも来て。
 大丈夫。

 あなたは、ちゃんと“なれる”わよ」

その言葉は、医師としてではなく、ひとりの女性としての温かさに満ちていた。


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