君の隣
それから数日。

 麻未はなかなか、職場に妊娠のことを報告できずにいた。

“言わなきゃいけない”──その思いはある。

 でも、それと同じくらい胸にひっかかっていたのは、後輩で、呼吸器内科医の理名の姿だった。

彼女と拓実が、不妊治療をしていることは知っている。

たしか、1ヶ月ほど前──彼女がこっそり見せてくれた、排卵誘発のスケジュール表。

 麻未は、それを簡単に忘れられなかった。

(もしも……

 わたしの報告で、彼女が傷ついたら)

そう思うと、言わなきゃ、という気持ちが削がれていった。

ようやく決意したのは、心拍確認から一週間後のことだった。

 その日の昼、医局の片隅。

 麻未は深呼吸をしてから、ゆっくりと席を立った。

まず向かったのは、部長と主任医師への報告。

 母体と胎児の健康状態、今後の勤務継続と体調管理の方針。

 淡々と、でも丁寧に話す麻未の声は、少しだけ震えていた。

「……妊娠は、おめでたいことですからね。
 無理は禁物ですよ」

主任医師のあたたかな言葉に、胸がじんとした。

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