君の隣
「今日も……外来、途中で代わってもらっちゃった。
 ……悪阻がひどくて、点滴受けて。

 そのまま少し寝かせてもらって……」

「それでいいんだよ」

 即座に返ってくる、迷いのない言葉。

でも──麻未は目を伏せたまま、小さく首を振った。

「……なんかね、申し訳なくなっちゃって。

 周りが優しくしてくれるほど、自分がすごくダメな人間みたいで。

 役に立ててないのに、気を遣わせて……

 情けないっていうか……」

言葉の先がかすれていく。

 慎也がそっと麻未の髪を撫でた。

「麻未は、命を育ててるんだよ。

 いま一番大事な仕事をしてるじゃん」

「でも……私の中にいるだけで、まだ何もしてない」

「そうかな?」

慎也は、少しだけ身体を傾けて、麻未のお腹に頬をあてた。
服の上から、そっと手を重ねる。

「この子さ、今日もがんばってるよ。

 “おなかの中で”ってことは、麻未も一緒にがんばってるってことだろ?」

小さく、でも確かに響く声。

< 79 / 216 >

この作品をシェア

pagetop