君の隣
 胸の奥に、ぽつんと火が灯る。

「……やっぱり、泣いてる?」

「うるさい」
「泣いてないけど、泣いてるよ……」

麻未は慎也の癖のある黒髪にそっと指を差し入れた。


 ぬくもりと湿り気。

 すべてが、今夜の優しさだった。

「ありがとう……

 ごめんね、じゃなくて、ほんとはずっと、ありがとうって思ってた」

慎也は、彼女の頬にそっとキスを落とした。

「“ありがとう”は、ふたりで言い合うものだよ。

 ひとりじゃ、言えないだろ?」

その夜──
雨音は静かに続いていた。

 だけど、ふたりの間にあった曇り空は、少しずつ晴れていくようだった。

麻未は、そっと目を閉じた。

 明日もまた、きっとしんどい。

 だけど──ひとりじゃない。

外はまだ雨。

 でも、朝はきっと来る──。

 麻未はそう信じながら、目を閉じた。
 

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