君の隣
慎也は、膝から崩れ落ちるようにベッド脇へ。

 片手でそっと赤ちゃんの頬に触れ、もう片方で麻未の手を包んだ。

「ありがとう……ほんとうに……ありがとう……」

その手のひらに、ぽとりと一滴、涙が落ちる。

麻未は弱々しく笑った。

「……ねえ、目、慎也にそっくりじゃない?」

「……でも……口元、きみそっくり」

「じゃあ……仲良く半分こだね……

 この子は、ふたりの……」

言葉は途切れたけれど、想いはひとつに重なっていた。

夜が明け、東の空がわずかに朱を差し始めるころ。
病室のカーテン越しに、朝の光がそっと差し込んだ。

麻未は眠っていた。

 赤ちゃんは保育器の中で静かに眠り、慎也はその傍らで、眠る妻と娘を見つめていた。

(この景色を、どれだけ夢に見ただろう)

いつか欲しいと願っていた「ふたりの家族」。

 それは今、確かに目の前に在る。

彼はゆっくり立ち上がると、そっと赤ちゃんの小さな手に指を添えた。

すると、娘はその小指を、ぎゅっと握り返した。

──それは、まるで「これからよろしくね」とでも言っているかのように。

「……ようこそ、俺たち家族のもとに」

慎也は、そう囁いた。

その声は、新たな命と、母になった麻未を包み込むように、優しく響いた。

家族の物語は、いまここからはじまる。

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