恋がしたい。ただ恋がしたい。
「香織、遅くなってごめん。」
「…ううん。別にいいよ。予定がある訳でも無かったし。」
「何か注文はしてた?コーヒーだけ?」
「ーあ、うん。亨は?」
「俺は、まだ。カウンターがよく分からなくて。お店の奥にあるんだな。」
「カフェスペースに来たこと無かったの?」
「ああ。ここに来るのも初めてだよ。」
…ここを指定してきたのは亨のくせに、一度も入った事の無い店に誘うなんて、おかしな話だ。
私は「コーヒーでいいわよね?」と確認して、カウンターにいるバリスタの陽介さんにコーヒーを注文した。
亨は、夏でもホットのコーヒーを好んで飲む。
亨が家に泊まった日曜日の朝は、ミルでコーヒー豆を挽いて、一緒にドリップコーヒーを飲むのが定番だった。
かつて二人の間にはコーヒーの香りが流れていた。同じようにコーヒーの香りが漂うこの空間に二人でいると、しあわせだった時間を思い返してしまい、胸が苦しくなってしまう。
「はい、お待たせしました。」
コトッ、と亨の目の前にコーヒーが置かれる。
そして「香織ちゃんも、どうぞ。」と私の前にも新しいコーヒーが置かれた。
「えっ、陽介さん、私注文してませんよ?」
思わず名前を呼ぶと、亨の眉間にくっきりと皺が寄ったのが見えてしまった。