恋がしたい。ただ恋がしたい。
そんな亨の様子が見えていないのか、「冷めちゃったでしょ?お代はいらないから。ごゆっくりどうぞ。」と陽介さんは笑顔で会釈をして、カウンターへと戻って行った。
「…何で香織の名前知ってんの?アイツ誰?」
一気に不機嫌になった様子の亨に、付き合っていた時と同じように「ごめんなさい。」と言いかけて…寸前で堪えた。
「…私、ここによく来るから名前を覚えてもらってるだけなんだけど。ってか、今の話亨に言う必要無かったよね?もうあなたとは付き合ってる訳でも、何でもないんだから。」
「…で?話って何?『結婚しました』とか?それとも同級生として『結婚式に来て下さい』とか?…目の前でプロポーズまで見せつけられてるんだから、私の気持ちを考えたら、今更そんな馬鹿な話するわけないよね?」
すら、すら、すらと今まで溜めていた不満を爆発させるように次々に彼を非難する言葉が口をついて出た。
亨は目を見開いて驚いた顔をしている。
無理も無い。亨とは一度も喧嘩らしい喧嘩をした事なんてなくって、空気が悪くなりかけても、いつも折れるのは私の方だった。
だけど驚いたのは一瞬で、亨は笑顔を見せて意外な一言を口にした。
「それって…嫉妬?嫉妬してるんだよな。俺の事、まだ好きでいてくれてるんだよな?」
「…なぁ、やり直そう。と言うか、別れてなんかいないんだよ。俺たちは。」