恋がしたい。ただ恋がしたい。
「亨がそんな駆引きとか、試すとか、そういうずるい事をする人だとは思わなかった。」
好きで好きで仕方がなくて、心ごと飲み込まれてしまうような激しいものではなかったけど、穏やかな愛情は確かに私の中に存在していた。
だけど、それは目に見えないものだから、お互いを信じられなくなったらすぐにどこかに消えて無くなってしまう。
試そうが試すまいが、亨が私の気持ちを疑ったその瞬間にお互いを想い合う心は、粉々に砕け散って消えてしまったのだ。
今更愛の言葉を並べられても、空っぽの心には何も響かない。空々しさが増すだけだ。
ただ、それを亨に分かってもらうには、私は何て言葉をかけたらいいんだろう。
…未だに私の中に、自分に対する愛があると信じて疑っていないこの人に。
溜息混じりに、コーヒーに視線を落とす。せっかく陽介さんが煎れ直してくれたコーヒーも、また冷めてしまった。
これ以上、ずるずると話をしていても仕方ない。
『あなたに対してもう愛情は無い』と、そう伝えようと覚悟を決めて顔を上げた瞬間、私達が座るテーブルの横に一人の女性がカツカツと足音を立てて近づいて来た。