恋がしたい。ただ恋がしたい。
そんな私の様子を見て、男の子は、はぁ、とため息を一つ吐いた。
「忘れ物って何でしょう?今日中に直接本人に届けないといけないものですか?」と聞かれる。言葉こそ丁寧だけど、さっきとは打って変わって慎重な態度で接して来たのが分かった。
怪しまれちゃったかな…。
「どうしたの?」
もう一旦引き上げよう、そう思った所で、店の奥から女性の声が聞こえた。
「あっ、マネージャー。えっと、この方が葉山さんに用事があるみたいで…忘れ物を届けに来たそうです。」
「分かった。瀬尾くんはお店に戻って。」
この男の子の名前は瀬尾くんと言うのだろう。お店に戻る後ろ姿に「どうもありがとうございました。」と声をかけて頭を下げた。
一瞬、男の子は驚いたように目を見開いて、軽く会釈をして奥へと戻って行った。
「お忙しいところ、すみません…あの、私、」
「聞いてました。崎山さん、ですよね。」
「えっ?」
「うちの者が失礼しました。…ただ、うちの葉山には親戚や友達を装って近づこうとするお客様がとても多いので、スタッフの対応もどうしても慎重になってしまうんですよ。」
マネージャーと呼ばれたその女性は、艶のある肩くらいまでの長さの黒髪を揺らして一瞬店の方に目をやると、またこちらに向き直った。