恋がしたい。ただ恋がしたい。
前に、紫が結婚して寂しいと落ち込んでいた時に、裕介くんが抱き締めて慰めてくれた。
あの時に裕介くんの腕の奥からほのかに香った香りが…こんな感じの甘くて柔らかな、女性らしい香りだったような気がする。
ドクン、ドクンと耳障りなくらいに心臓の鼓動が耳に響く。
どす黒い嫉妬の感情が胸から流れだし、全身を駆け巡る中で、辛うじて忘れ物を届けに来たんだという事を思い出し、鞄からスマホを取り出して彼女の手に置いた。
もうその華奢な指先を見つめるのは辛かったし、早く彼女の香りの届かない所に逃げたかった。
「わざわざどうもありがとう。誰も送る人はいないんだから、せいぜい気をつけて帰ってね。」
彼女は最後まで失礼な態度だったけど…
でも、そんな事はもう気にもならなかった。
***
どうして…どうして、どうして、どうして…
帰り道、頭の中は『どうして』でいっぱいだった。
他の言葉なんて出て来ない。
マンションへ戻ると、真っ先に裕介くんの寝室へと向かった。
「どうせ明日まで戻って来ないんだから。」
そう呟きながらボックスシーツを勢い良く取ると、そのまま洗濯機へと突っ込んだ。
グルグルと回りながら洗濯されているシーツを見ているうち、どうしようもなく悲しい気持ちがこみあげてきた。