恋がしたい。ただ恋がしたい。

「崎山、薬はある?食べ物は?どっか寄ろうか?」


「…あ、うん。薬ならあるよ。」


またガンガンと叩きつけるように痛みが増していく頭痛を早く静めたくて、鞄から頭痛薬を取り出した。


「おい、ちょっと待て。そのまま飲む気じゃないだろうな。」



私がパッケージからパキッと薬を取り出したのを見て、慌てたように声を掛けられた。


「何で?水は鞄に入ってるから…あっ。新車だからダメ? 大丈夫。こぼしたりしないから。」


「バカ。そうじゃないって。水くらい溢したってどうってこと無いよ。」


「…もどしたりもしないわよ?気持ち悪く無いし。」


「んな事、思いもしなかったわ。つーか、まだ薬は飲むな。しまえ。」



純くんは最近、長年乗っていたスポーツカーからファミリーカーに買い換えた。前の車と同じで、純くんみたいに爽やかで澄んだ青い色の車だ。


付き合っていた頃は、純くんはまだ免許を取りに通っていて、私が助手席に乗った事は一度も無かった。


純くんに振られてから、車を見る度にズキリと胸が痛んだのを思い出して思わず苦笑する。


…あんなに憧れていた青い車の助手席に、車は違うけどまさか乗ることになるなんてね。


純くんと付き合っていた頃の、たった何ヵ月間の記憶をずっと引きずっていた頃には考えもしなかった。



「…まぁ、どうせ新車っつってもすぐに汚れるだろうしな。」


呟くように言ったその言葉の意味がすぐに分かっても、もう胸が痛む事はない。
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