恋がしたい。ただ恋がしたい。
いつもの習慣で階段に向かおうとする足を止めて、反対側のエレベーターの方へ向かった。
少しだけふらつく足を踏ん張りながら慎重に歩いたのは、確実に純くんが見ていると思ったからだ。
部屋に着いて玄関に入るなり、鞄からスマホを取り出した。
「 ーもしもし。おかげさまで無事に着きました。…これから何か口に入れてから薬を飲んで、ちゃんとベッドに寝ます。」
注意されそうな事柄を先回りして言ってやった。
ため息つきながら『分かったよ』なんて言われるのかと思っていたけど、純くんからは全く違う返事が帰って来た。
「……あのさ……崎山はさ、昔から何かあったらみんなの先頭に立ってトラブルを解決してくれてただろ?……だけど自分の事は二の次だ。それがどれだけ回りの人を心配させてるか分かってるか?」
トラブル?回り?心配?
今日の事と一つも関係ない言葉ばかりで戸惑ってしまう。
…純くんは何が言いたいの?
「それが何か関係あるの?確かに今日はー」
「うっさい。黙って聞け。俺だってな、お前の事が心配なんだよ。何も言う権利は無いなんて言ったけど、せめて同僚として心配させろ。……お前はな、どうでもいい事は口にするくせに肝心な事は絶対言わない。弱音も吐かない。だけど傷つきやすいのも、見た目ほど強いヤツじゃないってのも知ってるんだよ。顔は笑ってるくせに、いっつも泣きそうな目をしてる……俺はそれを見てるのが辛かった。…辛かったから逃げて、向き合うことを避けて……だけどちゃんと突き放してやる事も出来なかった。」