恋がしたい。ただ恋がしたい。
***


「ところで、香織、晩ご飯何食べるつもりだった?」


ついさっきまで恋愛の話をしていて……ひょっとしたら、愛情よりも深ーい深い友情を確かめあっていたはずなのに、今の彼女の表情からは友情なんて微塵も感じられない。


どうやら本能の赴くまま自由に生きる女は、食欲を抑える事も難しいらしい。


「…何も考えて無かった。」


やっぱり純くんにスーパーに寄ってもらえば良かったと後悔しても、もう遅い。


ため息をついた私に紫はニヤリと笑った。


「そう思って、紫さんが色々買っておいたからね。今日は任せといて!」


そう言うなり、軽い足取りでキッチンへと向かっていく。


「…紫が料理するの?」


出会ってから10年以上。一緒に暮らしたのはほんの数週間だけど、紫の実家やアパートや、このマンションに泊まったのは一度や二度では無い。


…無いけど、紫が料理をしている姿なんて一度も見たことが……うん、無い。


「失礼ね、私だって結婚したんだから料理くらいするわよ。もう裕介もいないしね。」


そう言いながら、冷蔵庫からキャベツやしいたけ、鶏肉などを取り出して次々と並べ始めた。
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