恋がしたい。ただ恋がしたい。
暗い考えで頭がいっぱいになりかけたその瞬間、裕介くんが私の両手を握った。
正座をしたまま膝の上で握りしめていた両手を、裕介くんの長い指がふわりと包み込む。
さっきまでは逸らしていた視線をしっかり合わせて、裕介くんはゆっくりと話はじめた。
「…それは違う。…違うよ。前にも話したと思うけど、これは僕がしたくてした事なんだ。だから香織ちゃんは気にしなくていいんだよ。」
そう言われたって、卑屈な私は自分が悪いっていう感情からなかなか抜け出せない。
…裕介くんは、私のこと、どう思ってる?
私は裕介くんの事が好き。…同じように好きになって欲しいって、求められたいって、そう思ってる。
心はとっくに正直になっていて、裕介くんの優しさを…今私だけに向けられている眼差しを、手の温もりを…離したくないって、誰にも渡したくないってずっと叫んでいる。
だけど『彼女』の存在が頭の中にちらついて、なかなか素直に気持ちを口に出すことができない。
今度は私が視線を逸らす番だった。だんだんと俯きながら唇をギュッと噛み締めて、本当に聞きたい事とは違う言葉を口に出した。
「…だって、まだ仕事残ってたんでしょ?接客の途中で抜けて来たんだよね…?…やっぱり、私のせいじゃない…。」
まるで尋問だ。声だって震えるといけないから、わざと冷静を装って温度の無い冷たい声で問いかけた。