恋がしたい。ただ恋がしたい。
裕介くんは手を離して少しだけ距離を取ると、俯いている私の顔を覗きこんだ。
「今日はね、打ち合わせをしてたんだ。コースのメニューとか、内容とかをね。でもほとんど決まってるのに、首を縦に振らない人がいて…理由も何だかんだ言ってたけど、ただ僕達に難癖つけたいだけって感じだったから納得いかなくて。『一旦持ち帰って変なケチの付けようの無い完璧なものを仕上げて来ます!』って、チーフシェフと宣言して一緒に逃げて来ちゃった。」
クスクスと笑いながら話す裕介くんに、固くなっていた表情が少しだけ解れていく。
「…ウェイターの仕事って、色々と大変なんだね。」
接客するだけじゃなくて、裕介くんは新人の研修まで任されている。それに、コースの事まで関わっているなんて…。
一緒に暮らす前までは、飲みに誘う時に急に呼び出したりした事もあったけど…いつもすぐに来てくれていたから、裕介くんの仕事がこんなに忙しいとは思っていなかった。
「香織ちゃんだって子ども達の前に立って勉強教えるだけが仕事じゃないでしょ?それと一緒だよ。」
「僕の仕事はね、お客様が来ないと成り立たないから自分の事よりもどうしたってお客様を優先するし、休みだって自分の都合ではなかなか取れない。 けどね……大切な人が辛い思いをしていたり、苦しんでる時は別だよ。今日みたいに何がなんでも絶対に駆けつけるし、側に居て支えてあげたいって…いつも思ってる。…でも僕にとっては仕事もかけがえのないものだから、どっちも大切なんだ。だから、これ以上『中途半端』な事はしないよ。絶対にね。」
紫に『中途半端』と言われた事によっぽどダメージを受けていたのか、そこだけ妙に強調して話す裕介くんが可愛くて思わずクスリと笑ってしまった。