恋がしたい。ただ恋がしたい。

苛立った声に、思わずビクッと身をすくめてしまった私をギュッと抱き締めながら、裕介くんが言った。


「ごめんね。怖がらせるつもりじゃなかったんだけど…。まず先に誤解を解いておくけど、僕は有紗さんと付き合ってはいないよ。」


きっぱりと言い切った裕介くんに一瞬だけ安心したけど、またすぐ胸にもやもやとした不安が広がっていく。


付き合ってないなら、有紗さんはどうして私にあんな風な言い方をしたの?


「それに、有紗さんが仕事じゃないのに僕を呼び出したっていうのも、有紗さんが自分の家に泊まるような言い方をしたのも、全部嘘だから信じないでね。」


「僕を呼び出したのは和希さんだし、スマホを受け取ったのも和希さんから。…『菅原さん』って言うから、和希さんの話だと思ってびっくりしたよ。」


嫉妬心で『有紗さん』って名前すら口に出したく無かったからなんて、恥ずかしくて絶対に言えなかった。


「それは…ややこしい言い方をしてごめんなさい。…だけど『Felicita』には裕介くんいなかったよね?でもいるって嘘ついた…。有紗さんと付き合ってる事を誤魔化したいんじゃないなら、何で私に嘘をついたの?…誤解だって言うけど、どこまでが誤解なの?」


責めるような言い方をしたつもりはなかったけど、裕介くんが顔を曇らせた事で、胸の中の不安がさらに大きくなっていく。


だけど、裕介くんは私の予想とは全く違う言葉を口にした。


「もうこれ以上誤解されたくないから言うけど……僕、もう少しで『Felicita』を離れるんだ。」


「えっ?『Felicita』辞めちゃうの?」


「ううん。チーフシェフの青木さんが独立する事になったんだ。和希さんも了解済みで、円満独立ってやつね。で、僕もマネージャーとして新しいお店に行く事になったんだ。まだスタッフ全員も知らない話だから、誰にも言わないでね。…特に紫ちゃんには言っちゃダメだよ。」
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