恋がしたい。ただ恋がしたい。

和希さんに認められる事以外に、浮かれるほど嬉しい事なんて、いったい何があったんだろう。


「…嬉しい出来事って、何?」


「…。」


一瞬だけぐっと言葉を詰まらせて、やがて小さな声で裕介くんが答えた。



「……香織ちゃんがアイツと別れた事。」



「アイツって…亨?」


「うん。……ほんとはね、アイツと付き合い始めた時も今までと同じで、すぐに別れちゃうだろうって思ってたんだ。だけど、香織ちゃんはアイツの事、大好きだったでしょ?幸せだったでしょ?」


「……僕が幸せにできなかったのは悔しかったけど、香織ちゃんが幸せならそれでもいいって思ってた。空気みたいに、家族みたいに側にいるのが当たり前な関係が僕も心地よかったからね。そのまま少しずつこの気持ちを忘れられたら、自分のダメージも少ないかも…なんて情けない事も考えてたんだ。」


サラリと、とんでもない告白をする裕介くんに驚きを隠せない。


「えっ、ちょっと、待って…裕介くんはいつから…その……っ。」


一瞬息が止まるくらい、ギュッとまた強く抱き締められて、私の疑問は身体の中に閉じ込められてしまった。



「香織ちゃんアイツとは長く付き合ってたし、そろそろ結婚するかもね、なんて言ってたでしょ?…だから、もう僕にはチャンスなんて無いんだろうなって諦めてた。お店がオープンしたら暫く香織ちゃんにも会えなくなるくらい忙しくなるだろうから、香織ちゃんを忘れるにはいい機会だって思ってたんだ。これからは今まで以上に仕事に打ち込もうって。」


ハハッ…と空気を震わせながら、裕介くんが苦笑いを溢した感触が抱きしめられた肩ごしに伝わってきた。
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