恋がしたい。ただ恋がしたい。
……そんな事を言われたら、もう一口も飲めません。
口元に運びかけていたジョッキをテーブルの上に戻して置いた。ジョッキの中にはまだ四分の一ほど中身が残っていたけど、泣く泣く諦める事にする。
だって、今日は絶対記憶を無くしたくないんだもの。
「もう止めとく。まだ全然酔ってないから素直じゃないし、可愛げも無いかもしれないけど……初めてのデートなんだから、今日の事は全部覚えておきたいの。」
裕介くんは、気が付いてた?
今まで二人で飲みに出掛けた事はあったけど、付き合ってからこうして一緒に出掛けたのは、今日が初めてなんだよ。
だから今日の事は全部覚えていたいし、忘れたくないし、裕介くんにも覚えていて欲しい。
って、そこまで恥ずかしくて言えなかった私は……やっぱり酔っていないと素直じゃ無いし、可愛くも無いけれど。
「……うわっ、なにそれ。ちょっと、反則なんだけど。」
私の言葉を聞いた瞬間、ぶわり、と裕介くんの頬が熱を持ったように真っ赤に染まった。
えっ、何?なんで赤くなってるの?と驚いているうちに、裕介くんは「じゃあ、覚えてるうちに帰ろうね。」なんて言いながら私の手を取って、あっという間に店の外まで連れ出されてしまった。
「……帰るの?」
マンションの方向に向かって歩き出した裕介くんに問い掛けた瞬間、急にくるっと振り返って、チュッと唇に触れるだけのキスをされた。
「うわっ!」
驚いて仰け反りながら声を上げると、そんな私の様子を見ながら裕介くんはクスクスと笑っている。
「あー、もう可愛い。可愛い過ぎて困る。別に帰るつもりは無かったんだけど、あのままあそこにいたら、ほんとヤバかったからね。……まだ帰りたくないなら、あっちの方まで散歩でもしよっか?」