恋がしたい。ただ恋がしたい。
そう言いながら、裕介くんは左側の道を指差した。
今、私達はちょうど『紫山』のある商店街のアーケードを抜けた所に立っている。目の前には、国道を挟んで駅と『Felitita』が見える場所だ。
そのまま国道を渡って右に進めば、私達のマンションが見えて来るんだけど。
裕介くんが指を指している方は駅裏へと続く道で、そのまま真っ直ぐに行くと繁華街へと繋がっている。
……だけじゃなくて、途中にはキラキラ……いや、ギラギラと輝く建物がいくつも並んでいるネオン街にも繋がっている道なのだ。
「……冗談だよね?」
裕介くんの言いたい事が分かって、恥ずかしさに頬が熱くなる。
……自慢じゃないけど、28年生きてきてラブが付く方のホテル入った事なんて一度も無い。
「言うと思った。あのね、冗談なんかじゃないからね。本当なら今すぐここで押し倒したいくらいなんだから。」
そう言いながら、『我慢できない』とでも言うように握った手にグッと力を籠められる。
「僕だって今日は初めてのデートだなって楽しみにはしてたけど……本当はもっとちゃんとしたデートにしたかったんだ。言い訳ばっかりになっちゃうけど、時間通りに仕事が終わらないかもしれないから遠出も出来ないし、お店の予約とかも出来なくて、結局いつもと同じ感じになっちゃって内心へこんでたのに、香織ちゃんはそんなの全然気にしてなくて、ずーっと嬉しそうにニコニコしてるし。しかも『今日のことは全部覚えてたい』なんて言うんだもん……もう、可愛くてたまんないんだけど。」
裕介くんの本気は伝わったけど、やっぱり……ラブのホテルにはどうしても入れない。
それなりの恋愛経験もあるくせに、いちいち恥ずかしがるのもおかしいのかもしれないけど。