恋がしたい。ただ恋がしたい。
亨は私が男友達といるとあからさまに機嫌が悪くなる人だったから、裕介くんに会わせた事も無かったし、紫と三人で飲みに行く時だって、わざわざ裕介くんの名前を口にする事はしなかった。
享とは、大学時代の同級生だから、裕介くんとは面識は全く無かったはずなのに。
「まぁね。何回か二人で歩いてるとこ、見かけたことはあったから。声は掛けなかったけどね。」
「そっか…田舎は狭いね。」
その時の私は裕介くんにはどう映っていたんだろう。最近じゃ二人で出かける事も無かったから…二人で歩いていた時の私は、たぶんしあわせそうな顔をしていたはずだ。
いちばん近くにいたはずの人が今じゃ泥棒か…。
「ははっ…信じられない。」
もう、力の抜けた笑いしか出て来なかった。
「で?香織ちゃん、これからどうするの?」
「…へっ?どうするの?…これから?何が?」
乾いた心に唐突に向けられた質問の意味が理解できずに、おうむ返しで質問を返す。
「あのさ、この前飲んだ時に一週間前に振られたって言ってたよね。じゃあ今日で大体10日くらいだよね?別れてから。」
「そうだけど?…それがどうしたの?」
「香織ちゃん、この10日間どこで寝てたの?」
「どこで…って、ここに決まってるじゃない。私の家なんだから。」
「そういう意味じゃなくてさ…ココで寝てたの?」
裕介くんの長い指先がゆっくりとソファーを指差す。
そこにはタオルケットと枕が重ねて置いてある。
「…。」
「黙ってもムダ。香織ちゃんはさ、きちんとしてるからこんな所に意味もなく枕とか置いておかないでしょ?」