恋がしたい。ただ恋がしたい。

奈緒子ちゃんの素っ気ない態度に明らかに落ち込んでいた純くんには気がつかないふりをした。


その後すぐ、奈緒子ちゃんの言った通りに純くんは体調を崩して高熱を出した。


新学期の忙しさも疲れの原因だっただろう。純くんを振り回した挙げ句、この一ヶ月ずっと側にいたのに好きな人の体調の変化にさえ気がつけなかった自分が情けなかった。


この熱が冷めてしまったら、側にはいられなくなるかもしれない。


泣き言ばかりが浮かんでくる心に蓋をして、純くんのアパートまで付き添い、強引に上がり込んで看病をした。



側にいたい。


離れたくない。


明け方になっても下がらない熱に、病院まで連れて行こうかと考えていた時、不意に純くんが私の手を取った。


昔に感じていた体温よりも少しだけ熱くて、熱のせいか汗ばんだ手の平の感触。


苦しげな息づかいの中で、彼が口にした名前は…


ーー『奈緒子』


心の底から絞り出すような、求めるようなその声は…


付き合っている時…いや、出会ってからも一度も聞いた事の無い、偽らざる彼の本音だった。



***


部屋を飛び出して、気がついたらドラッグストアの前にいた。


逃げ出したくせに、私はまだ看病したいなんて理由を付けて彼の側にいたいのか…


買い物を済ませてアパートに戻ると、純くんの部屋から駆け出して来た人影が目に入った。


そのまま自転車に乗って去ろうとしたその女(ひと)を信じられない思いで見つめる。


…昨日はあんなに素っ気ない態度で突き放したくせに。

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