好きも嫌いも冷静に
冷静の中に情熱

店を出て歩いた。寒いな…。
まだ秋口だというのに、夜はやっぱり冷えるな。
俺は持たされたパウンドケーキを手に向かっていた。
部屋は違っても、住んでる場所が同じだもんな。
今まで、ずっと一緒に居たようなもんだよな、考えて見たら。
行ってらっしゃいとお帰りなさいを言ってくれて…。
しかし、英雄の言うなりになんて…ちょっと癪に触るな…、フ。

着いた。大家さんの部屋、明かりは点いてる。
…もう何も考えるな、俺。さあ、行くぞ。

起きてるかな…。
コンコンコン。

「はい?」

良かった、ドアが開いた。
少し間があったのは、ちゃんと確認していたからだろう…、こんな時間だし。

「夜分にすみません…」

「…」

「あ、これ、英雄が大家さんにって、持ってけって言うから」

「…うわ〜ん」

えーっ?!いきなり…。俺、また泣かせてしまったのかな…。

「あ、会いたかったです…」

俺の胸に飛び込んで来た。

「うわっと…。はぁ、ごめん、…俺もだよ。…会いたかった。泣かせてばかりで、…鈍感で、下手で…何だか、ごめん」

ギュッと抱きしめて頭を撫でた。

「私、会いたくて、会いたくて、…でも我慢してました」

「…ごめん。…俺も会いたかったんだ。早く会いにくればいいのに…。でも…我慢してた。
…バカだよな、我慢なんて…自分に素直じゃなくて…」

俺の中、ジリジリと燻っていたモノが一気に燃え始めるのが解った。
もう理性は無理だ。泣いている大家さんの顎を上向かせ唇を塞いだ。
あっ…。小さく声が洩れた。
少し開いた唇、すかさず深く口づけた。
< 105 / 159 >

この作品をシェア

pagetop