好きも嫌いも冷静に


「部屋に、お邪魔してもいいですか?それとも、…俺の部屋に行きますか?」

「…聞いちゃダメです」

っ!そうだ…。

「じゃぁっ…」

大家さんを抱き上げた。

「きゃっ」

「シーッ…しっかり掴まっていてください。部屋の鍵はどこにありますか?」

「は、はい、ここに」

「じゃあ、取ってください」

「はい」

「行きますよ?…いいですか?」

「…はい」

抱き上げたままで鍵を掛け、階段を上がった。


今度は俺がポケットから鍵を出し、部屋のドアを開けた。
大家さんは俺の首に腕を回し、顔を隠すように押し付け、しっかりしがみついていた。
玄関でもどかしく靴を脱ぎ、迷わず寝室へと向かった。
…明かりは点けていない。
暗闇の中、大家さんをゆっくりベッドに下ろし、俺は側に腰掛けた。
ベッドヘッドに付いている、小さなライトを点けた。
まだ涙に濡れている頬に手を滑らせた。
その手に大家さんが触れた。…瞼は閉じていた。
顔をゆっくり近づけ、そっと触れるだけの口づけをした。少しビクッとした。
顔の横に両手を着き、食むように口づけた。
ん、んん、ん…。
洩れる声が俺を切なくさせた。

「…澪」

無意識にそう呼んだ。

「美作さん…」

瞼をゆっくり開けた。

「伊織でいいから…」

耳に触れながら髪に指を入れた。

「…伊織さん」

「澪…、ずっと欲しかった…」

顔を近づけて止めた。触れそうで触れない、息がかかりそうな距離で…見詰めた。逸らさず見詰められた…、ドキドキした。ふっくらとした唇を見ながらゆっくり首を傾け口づけた。白い肌の首筋が色っぽかった。
両腕を取り指を絡めた。顔の横で押さえるように捕えた。
体が、もう熱い、…ジンジンする。
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