オフィス・ラブ #∞【SS集】
松岡はついに、週の半分ほどを休むようになった。

ここまで来ると、戦力として数えるほうに無理がある。


いつまで組ませるんだよ、と堤はマネージャーのくもった目を開かせてやりたくなった。


その不満を新庄にぶつけると、面白いことにすぐむきになるので、しばらくはそれで遊んでもいたんだけれど、いい加減やりすぎたのか、新庄はいよいよ機嫌を損ね、距離を置くようになった。


まあ、それはいい。

新庄が面白い男であることには変わりないし、こうして自分を意識してピリピリしている姿も、また愉快だ。


コストの浪費だ、と思った。

松岡のような社員を雇っておくのは、純粋に金の無駄だ。


こういう部門の人間には、わからないだろう。

ここがメーカーの生産部門なら、従業員ひとりひとりの労働が、そのまま製品の原価に反映される。

制作に長時間かければ、当然原価は上がり、同時に損益分岐点も上がり、利益を生みづらくなる。


人月単価って、考えたことある? と堤は部内の人間たちに訊きたくなった。

人月とは、作業員ひとりが、ひと月にできる作業量を表す単位だ。

それを価格に換算したものが、人月単価。


つまり、ひとりの社員がひと月働くと、いくら金がかかるのか。

それが人月単価だ。


本人の給与、本人が働くことに伴う上司の給与、光熱費、諸経費、開発設備の減価償却費、などなど。

それらすべてを試算して、たとえば堤のいたプロジェクトなら、単価は90万円だった。

つまり、10人で1か月かけて制作したら、それだけで900万円かかるということだ。

半年かけただけで、5400万円だ。


予算とのかねあいで当然、人月の上限は決まってくる。

無制限に残業や徹夜をくり返しているようで、実のところは、人月との戦いなのだ。

今月はあと何時間しか残業できない、と常に意識しながら作業を進める。


それを超えたら人事に怒られる、とかそんな話ではない。

つまりは、会社の利益が減るということだ。

< 138 / 206 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop