オフィス・ラブ #∞【SS集】
「尊敬する人は?」
即答で、経営学者の名前があがる。
人格者なんだよね、あの教授、俺も好き。
「と、親父」
「お父さん、何してる方ですか」
大工、という答えに心底驚いた。
この人、大工の息子なの?
けどよくよく聞いてみると、実家が設計も施工もこなす建築会社らしくて、確かに大工かもしれないけど、中小企業とはいえ、つまり社長だろ。
そう訊くと、経営は叔父に任せてるから親父はあくまで棟梁だ、と言う。
要するに、社長であるよりも、職人である父親が好きみたいだ。
「子供の頃の夢は?」
「…6部で、一問一答でも流行ってたのか?」
「6部?」
なんでここに6部が出てくるんだ。
訊き返した俺に、珍しく新庄さんは、しまったという顔を一瞬した。
なんでもない、と低く言って、パイロット、とつぶやく。
「ベタですね」
「運転手さんは、男の子の憧れだろ」
真顔でそんなこと言うから、耐えきれずに大笑いすると、新庄さんはにやりと笑って「休憩終わり」と腕時計を見る。
俺が煙草を吸うことがわかってから、すっかり仕事の一部を喫煙所に持ちこむようになってしまった。
毎日のように、一日のうち何十分かは、こうしてフロアの喫煙所で仕事をしつつ、少しの休憩を取る。
自分からは何も話さないけれど、答えられる質問には答えてくれることがわかったので、敵を知るために、俺はささやかな質問を積み重ねていた。
3月生まれの30歳で、歳の近い妹がいて。
酒はあまり飲まなくて、食べ物の好き嫌いは思いつかない。
好きな女性のタイプは特になくて、じゃあ苦手なタイプはと訊いたら考えこんで、「ボディピアスは好きじゃないな」と、おおざっぱなんだか細かいんだかわからない答えが返ってきた。
さっきまでチェックしていた、システムのマニュアルに話が戻った時、ガラスの扉がキイと鳴った。
「新庄、ちょっといい」
俺も知ってる声が入ってくる。