オフィス・ラブ #∞【SS集】
「新庄さん」
ふと目が覚めて、枕元を見ると、もう8時だった。
くたくたの半身を起こして、まだ熱を放っている隣の身体に声をかける。
結局、冷房をつけずに寝てしまった。
この汗だくの中、よくお互い眠れたな、と感心する。
いてえ、とこぼしながら、美しい背中が、億劫そうに動いた。
「本気で歯、立てるなよ」
うつぶせた状態で、肩や腕を、痛そうに押さえる。
確かにそこには、私がつけたとおぼしき歯や爪の痕が、生々しく残っていて。
でも、私はやっぱり悪くないと思うから、謝らずにいた。
タオルケットを胸まで引きあげて、ひざを抱えて座ると、散々、人で遊んでくれた男をにらむ。
汗で貼りつく髪を首の後ろに払ったら、しぶきが散ったのを背中に感じて、冷たいシャワーが恋しくなった。
新庄さんの頭越しに、壁のリモコンのスイッチを入れて、ひんやりした風を待つ。
「煙草、吸ってもいいですよ」
思ったとおり、本当か、と心から嬉しそうな声がした。
私のほうが外側にいたので、テーブルに手を伸ばして、煙草とライターをとった。
「一本だけです」
「サンキュ」
弾んだ声を聞きながら、再び手を伸ばして、テーブルの灰皿をとる。
それを放るようにふたりの間に置くと、煙草をくわえて火をつけようとしていた新庄さんが、私を見て笑った。
「まだ、すねてんのか」
「たちの悪いのに引っかかって、うんざりしてるだけです」