オフィス・ラブ #∞【SS集】
そのまま、ぱっとシートの上で身をひるがえすと、運転席のドアを開けて、車外に飛び出していく。

ポコン、と、彼女が放り出したペットボトルが、軽い音を立ててアスファルトに転がった。


おい、と新庄さんが慌てて車を降りた時には、もうその姿はなかった。

文字どおり、かき消えたように。



「――え?」



新庄さんが、呆然と立ちつくした。


助手席を降りた私も、目を疑う。

たいして広くない駐車場に、隠れられるところは、ない。

一瞬のうちに、どこかへ行ってしまった。


新庄さんと、目を見あわせる。



「どういうことだ?」

「さあ…」



子供の足は予想外に速いから、もしかしたら、一目散に帰ったのかもしれない。



「靴も履かずにか」

「そうですよね…」



あまりに不可解な出来事に、車のエンジンを切って、新庄さんと周辺を一周する。

すると、通りに面した一角に立っている電柱の陰に、ひとりの女性がしゃがみこんでいるのに気がついた。


もしかしてあの子を見なかったかなあと思い、声をかけようと近づいた時、女性がじっと手を合わせていることに気づき、私は足をとめた。


電柱のふもとには、可愛らしい花が供えてある。

ここで、事故でもあったんだろうか。



「おい…」



新庄さんにひじでつつかれて、その視線を追った私は、自分の見ているものが信じられなかった。


花の前に置いてある靴。

小さな、子供用の靴。


キャメルの、サンダルだ。

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