オフィス・ラブ #∞【SS集】
飛びこんでみなきゃ、わからない。


その言葉は、まるで私の憑き物を落とすように響いて、だんだんと、秀二以外の人がかすんで見えてきた。


彼らとは順次、円満にさよならし、私はこの人の「彼女」になろうと。

目が覚めたような思いで、そう心に決めたのは、大学3年の夏だった。


我ながら感心することに、年上、年下、同年、学生、バイト先のフリーター、クラブで出会ったDJやバーテンまで、私の相手は多彩だった。

なるべくバリエーション豊かにしたほうが、効率よく学習できると思ったからだ。



「どうしてそう、変に真面目なんだ…」



秀二のくだりは当然省いて概要だけを説明したら、新庄さんが疲れたようにテーブルにひじをつき、顔を覆ってため息をついた。



「ちょっとした自分探しです」

「そこそこやってただろうとは、思ってたけど。同一期間内のペースでいえば、俺を上回るぞ」

「勉強熱心なので」



思い出に浸っているうちに、コーヒーを飲み干してしまったことに気づいた。

通りかかった店員さんをつかまえて、ふたりぶんのおかわりを頼む。

すると、ごまかすな、と低い声が飛んできた。



「そもそも、ちゃんとつきあうって、なんだ」

「この人、私の彼氏って紹介するような、あるでしょう、そういうの」

「俺は一度も、お前にそう紹介された覚えがないけど」



それはまた、別の問題だ。

どうやったって、彼氏という軽い響きに違和感のある存在なんだから、仕方ない。

だいたい、誰かに紹介するシチュエーション自体、なかったじゃないか。

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