オフィス・ラブ #∞【SS集】
「数えかたは、ご理解いただけました?」
いただけるか、と煙草をくわえた口が吐き捨てた。
「じゃあ俺が、これまでのは全部練習で、正式にはお前で二人目だなんて言ったら、納得するのか」
「するわけないでしょう」
グラスを置く手が、つい乱暴になった。
一緒にしないでほしい。
私のは、親元から離れてちょっと解放されたバカな少女の、若気の至りみたいなものだ。
「たった2年間くらいの話です、それも、二十歳前後のことで」
「それだけの間に、ずいぶん忙しくしてたもんだな」
嫌味な言いざまに、かっと来る。
「数を覚えてるだけ、マシでしょう」
「俺ですら、一度に複数の相手はしないって方針だったんだぞ」
「いばらないでください、そんな唯一のポリシーくらいで」
「じゃあお前はさぞ、立派な理念のもとに、同時進行させてたんだな」
「二十代後半まで、見境いなくとっかえひっかえしてた人に、言われたくない!」
思わず、ドンとテーブルを拳で叩いて、カップとソーサーの跳ねる音で、我に返った。
周囲のテーブルから視線を感じて、どれだけ大きな声を出していたかに気づく。
見ればちょうどコーヒーを持ってきてくれた店員さんが、完全に引いた様子で、背後に立ちすくんでいた。
さすがに新庄さんも、居心地悪そうな顔で周囲に目を走らせて、でかい声出すな、と低く言う。
すみません、とつい素直に謝り、恥ずかしさに小さくなった。
もう。
なんでこんな場所で、こんな言い争いしなきゃならないの。